2021/3/8仕事

Story of 相続に実質的な平等を

想いは自分の口で



先日、相続登記を義務化する法案の提出がされたようです。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE046WL0U1A300C2000000/?fbclid=IwAR0l0u5U7H_ebhvQTNbJWEWTiv6VmAGTWlAX0LsnPjoaLlWkiFpc1yBSlkc



簡易に相続手続きができるように、相続人申告登記(仮称)なる登記が新設されるようです。不動産を相続したことを知ったときから3年以内に登記をしなくてはならないそうです。

相続登記が義務化されるのは大歓迎です。

今まで登記は後回しにされることが多く、その度に『義務じゃないので急ぐ必要はありませんが、やらないと後で面倒ですよ』とか微妙な言い回ししかできなかったので。

ただ、個人的には相続税申告の期限を1年にして、登記も1年を期限に揃えた方がわかりやすかったのではないかと・・・
1年やらない人は、3年経ってもやらないと思うのです。


それから住所変更に期限付けるってのは些か無茶な気もしていますが・・・問題の所在は住所が変わっても役所に届け出ていなかったり、昔の登記が結構雑だったせいであって・・・


主に相続登記は遺産分割の結果を反映するもので、途中経過を登記することは今まであまりありませんでした。今後は、相続人申告登記(仮称)というものができることによって、相続が発生した場合、一旦報告的な登記をする必要が出てくるとのことなので、これからどうなっていくのか興味津々で見守っていきたいと思います。
内容がある程度決まったら、こちらでも内容の詳細を報告と共に課題を提示していきたいと思います。


さて、前置きが長くなりました。
相続登記をするときには、遺産分割をするにしても、遺言書を書くにしても、誰がどのように何を相続するのか決めないと前に進みません。相続に関わる仕事をしていると、どのように分けるかということも当然相談を受けることになります。

この分け方の相談というのが、実は一番難しいのです。揉めないため、なのか節税のため、なのかでも分け方は変わってきます。

今回は、私が相談を受けたときに、どんなところに気を付けているかを記していきます。



相続の昔と今



相続の分け方についてお話する前に、昔の相続のことを知って頂く必要があります。相続に関する民法は何度か改正されています。


時系列ではこんな感じです。

旧民法   明治31年から昭和22年5月2日
応急措置法 昭和22年5月3日から昭和22年12月31日
新民法   昭和23年1月1日以後
 一部改正 昭和37年 昭和55年 平成11年 平成16年 平成30年


ここで説明したいのは、旧民法が適用されていた時代のこと。

我々日本人にとって長男というのは今でも特別なものです。戦国時代は昔から(当時は嫡男優遇)長男は家を継ぐものと教育され、周りもそのように理解していました。これは法律上も確かにあった長男相続の基本です。

旧民法では、家督を継ぐ(家柄、遺産を含む一切の相続)者は長男であると法律で明確に規定されており、その他の長女や二男には相続権は一切ありませんでした。世間の認識含め基本的には相続は長男がするものと相場が決まっており、非常にシンプルなものでした。


このことがいまだに残る長男優遇の根拠となっています。
但し、昔の長男とは、全財産を相続する代わりに家を後世に残していく義務を課されていました。ただ単に全財産を相続するだけではなく、仏事、実家(土地)、親族付き合いあらゆることが長男の肩にかかっていたわけですね。
今よりもっと厳格に、その地域ごとの習わしをも守っていく責務まで含んでいたと考えられます。

そして、昭和22年5月改正の応急措置法以降は、家督制度が廃止されたことに伴い子供らはその順番男女の別に関わらず、平等に相続することとなりました。法律的にはもう70年以上も前に長男相続の時代は終わっています。



世間の認識と法律のずれ



今のお爺さんお婆さん世代の方の中には、確かに今も長男を優遇する風潮が残っています。その子供世代や30代40代ぐらいになると、長男がすべてを相続するという感覚は薄まってきていますが、それでもどこかで長男が相続するという意識はあるようです。

以前は法律と世間の認識が一致していましたが、今は法律と世間の認識にずれが生じています。このことは、地方に行けば行くほど顕著です。

法律では子供たちが平等でも、お爺さんお婆さんらはやっぱり長男が~というような法律と感覚のずれが生じてきています。
このことが相続のトラブルの要因になっているケースは非常に多いです。現代では、長男だからと言って家のことをしっかりやってくれるとは限りませんし。
いわゆる跡継ぎとして本当に長男が相応しいのか冷静になって考える必要があります。



揉めないための相続の分け方



遺産分割も遺言書もある程度、相続人全員が納得できるものである必要があります。遺言書の場合は絶対ではありませんが、感情的トラブルを減らすためには納得感はとても重要です。

私が関わる相続では、極力相続人全員が納得できるものであることを心がけています。


納得感のある相続をするためには、単に均等に財産を分ければいいというものではないと考えます。単に均等に分けることで済むのであれば、そもそも世の中こんなにトラブルは起きていません。

私はこんなことを基準に分け方を考えています。

①配偶者がいる場合は、配偶者に多くの金銭がいくように調整(2次相続における相続税も考慮)
②子供はまず平等
③その上で、次のような事情がある場合は変更する
 ⑴介護や面倒を看てくれ(る)たのは誰だったか?  →  その子に多く相続させてあげるべき
 ⑵将来お墓のコトをしっかり守ってくれるのは誰なのか?  →  その子に多く相続させてあげるべき
 ⑶生前贈与を受けているかどうか  →  生前贈与を受けた子には少なく

 ⑷学費が高い子がいる   →  多くの学費がかかった子には少なく



もちろん、これが全てではありません。状況によっては全然違う内容にすることもありますし、ただただ額面上平等にすることもあります。一旦すべて配偶者にしてしまうこともあれば、2次相続における相続税対策を加味して分けることもあります。

額面上の平等をしない場合には、その『理由』こそが大切です。なぜ、その子が多くの財産を相続するのか、何を託すのか、そういうことが伝わらなくてはならないと思います。できれば、それを自らの口で語るべきです。

なんとなくわかるだろ、ということほど曖昧なことはありません。ちゃんと文書にしたり、口に出したりしなければ本当の想いは伝わらないものです。


理由が伝わったときに、額面上の平等でないことに対する納得感が生じるものです。せっかく残した財産ですから、想いをのせて奥さん、旦那さん、子供や兄弟に伝えていくべきものだと思います。

極論言ってしまえば、分け方の問題よりも、故人あるいは遺言を残す人自身が理由を説明することこそが大切なのです。



最後に


財産が自宅と預金ぐらいのとき、多くの家庭で遺産のほとんどを自宅が占めます。これを均等に分けることは事実上困難だし、自宅は欲しくない相続人も少なくありません。それでも分けなくてはならないのであれば、自宅の売却を検討せざるを得なくなります。
額面上の平等も実際にはなかなか難しいものです。


相続で揉めないためには、納得感のある、実質的な平等の提案ができる専門家に頼ってみるのをお勧めします。
経験と知識をフル活用してサポートしてくれるはずです。



最後までお読みいただき、ありがとうございました!!