2021/3/1相続

Story of 子供が生まれたら遺言書

文化を作るには数をこなせ


再婚して、前妻との間の子供たちとの相続が心配ということで相談を受けたお話がありました。
なんとなく心配していたけれど、有識者にそれはちゃんと対策しておかないとだめだよって言われたことをきっかけに遺言書を書こうという気になったそうです。

遺言書と聞いてもいまいち食指が動かないというか、気が乗らないというか。
その気持ちは理解できます。
この仕事をしていなければ、いまだに私も書いてなかったでしょうし。
誰も死ぬことは想像したくないし、考えたくもないというのが素直なところでしょう。
気持ちはわかるんですが、どうしても書いた方がいい人っていうのもいます。

今日は、その中でも未成年者がいる場合の遺言書の意味について。



遺言書を書いた方がいい人

遺言書を書きたくなくても書いた方がいい人はこんな人

⑴前妻・前夫との間に子供がいる
⑵子供のいない夫婦
⑶未成年の子がいる夫婦
⑷同性婚者
⑸相続人の一部が海外に在住している
⑹寄付をしたい

個別具体的にみれば、もう少し他にも事例はありますが、とりあえずこんなところでしょうか。
上記のどれかに当てはまる場合は高確率で遺言書を書いた方がいい人です。

未成年の子がいる夫婦なんていくらでもいるじゃないか!という声が聞こえてきそうですが、実際書いた方が良いのは確かです。
ベストではなくベターである、という点は付け加えますが。


未成年の相続人がいるとなぜ遺言書を書くべきか

子供がいる夫婦はいくらでもいるわけで、ちょっと大げさな話に聞こえるかもしれません。
でも、実際には誰も教えてくれないだけで、私は必要だと本気で思っています。
結論から言うと、相続後の管理を楽に、そして費用を抑えたいなら、未成年者のいる夫婦はすべからく全員が遺言書を書くべきだと思います。


ご理解いただくために、相続人に未成年者がいる場合の相続がどうなるかを説明します。


上記の例からすると、父Aが亡くなった場合の相続人は母Bと子C、D、Eとなります。
遺言書がない場合に、具体的な相続手続きをするためには相続人全員での遺産分割協議が必要です。
厄介なのが、この遺産分割協議です。
民法では、未成年者は単独で完全な法律行為を行えない(制限行為能力者)とされています。遺産分割も立派な法律行為です。
尚、親は子供のために代理人として契約をすることができます。親権者は、法律上当然に子供の代理人としてあらゆる契約ができるとされておりますので、遺産分割協議においても、D、Eを代理して母が手続きをできる!と一見思われそうですが、今回の事例では、母も遺産分割の当事者に名を連ねています。

そうすると、母は自分の相続人としての立場と、子D、Eの代理人としての立場を2重、3重に有していることになります。そうなると、子供の取り分を母の一存で好きにできてしまう、ということが問題とされいます。このような立場を利益相反と言い、法律上の利益相反が発生する場合には代理人にはなれません。

したがって、この事例においてはD、Eの2名は未成年者という設定なので、D、Eが独立して協議をすることはできず、また、母が子供らを代理して遺産分割協議を行うこともできません。

では、どうするか?



この場合は、母Bは家庭裁判所に、子D、Eのために代理人として遺産分割協議を行ってくれる人を特別代理人としてそれぞれ選任してもらう手続きをする必要があります。
特別代理人には、相続人当事者以外の者であれば可能とされています。なので、祖父母なども孫のための特別代理人になることもできます。
ここで少し厄介なのが、特別代理人はあくまで子供のための立場の人です。そのため、基本的には子供の法定相続分を確保しなくてはなりません。

金銭、不動産全てを法定相続分どおりに分けることになりますが、果たしてそれが家族にとっていいことなのか・・・母親の立場であれば、子のために子のお金を使うことは全く問題ありませんが、とはいえ正直めんどくさいのが事実です。
そもそも子供のため、という部分が曖昧です。


この事例だと、子D、Eには、父の遺産が法定相続分どおりに渡される可能性が高いのです。母からすると、専業主婦などで特に収入がない母であればこの遺産が生活を維持する肝になるわけで、この先苦労しそうなのは想像つきますよね。


尚、特別代理人に相応しい人が身近にいない場合は、専門家に依頼する必要があります。この費用や特別代理人の選任申立て費用が掛かってしまいます。

軽くネットで調べた限り、申立て費用だけでこれぐらいでした。

特別代理人選任申立ての費用
司法書士事務所の場合 3万円~5万円程度
弁護士事務所の場合 10万円~20万円程度


特別代理人になってもらうにはさらに費用が掛かります。
この他に遺産分割協議書の作成や相続人調査費用などが掛かるので、この金額からすると、やはり遺言書を書いた方が経済的メリットは大きいものと思います。

そんなこんなで、未成年者がいる状態で父母どちらかが亡くなると、思ったより大変なんです。
簡単なものでいいので、遺言書を書いておいた方が良いというのはご理解いただけましたか?


日本人は遺言書が苦手?

私見ではありますが、日本では無宗教が故に死生観が曖昧な印象が強くあります。
仏教やキリスト教では、生を全うした死のことを往生、召天などと呼ぶそうです。
多くの宗教においては、死は必ずしも悪いことではないと教えられています。

私自身も無宗教者(クリスマスは祝うし、不幸があったらお坊さんを呼ぶし、年明けには神社に行って初詣をします)なので、今まではあまり死に対して真剣に考えることもありませんでした。
日本人の多くは、身近な人の死によって死生観を学ぶということが多いのではないでしょうか。私の記憶では学校でもそれほど多くを学んだような気もしません。
それだけでは、死に対する恐怖心や生きるための意味を考え、学ぶことにはつながらないのでないかと思います。

話しがとっ散らかっていますが、要するに生きているうちに死に対して真剣に向き合うことが苦手な我々日本人にとっては、遺言書を書くこと自体が苦手なのだと思うのです。

結婚したり、子供が生まれたりしたら保険を考えるという文化は既にあるように思います。できれば、そこに遺言書を書くことを加えていただきたいのです。

『プロポーズするならゼクシィ』ならぬ、『子供が生まれたら遺言書』と覚えていただきたいぐらい。



最後までお読みいただき、ありがとうございました!!