2020/6/29仕事

Story of 士業と経営

『好きなことで生きていく』は簡単じゃない



先週、大手弁護士法人が破産したというニュースが入ってきました。
CMもバンバン打っていたので、知っている人も多いのではないかと思います。
最近は大手の事務所が不祥事を起こして懲戒を受ける、なんてことがちょくちょくありましたが、懲戒ではなくこの規模の破産はちょっと驚きです。


弁護士法人ミネルヴァ法律事務所はいわゆる過払い請求を専門的に行っていた事務所です。
過払い金というのは、かつて借金の返済に法律で定められた以上の金利を支払っていた場合に、多く払っていた金利分のお金が返ってくる、というものでした。
2007年からこの過払い金の請求が始まり、弁護士、司法書士業界では過払いバブルとまで言われるほど儲かる仕事とされていました。


私もかつて何件か経験がありますが、行う業務内容はそれほど難しいものではなく、端的に言えば、事務員さんが過払い金の計算を行い(計算するためのソフトやエクセルも充実していました)、その額の請求書を送付して相手側の入金を待つというものでした。

相手側と金額や支払い時期などの条件で交渉することもあり、折り合いがつかない場合は裁判になることもありますが、借金に苦しんでいた人は「借金がチャラになってかつお金が戻ってくる」となれば細かいことを気にしなくなることも多くあり、多少の妥協も日常茶飯事だったろうと思います。
私が担当していた時は、裁判までやりましたし、こちらの希望を勝ち取りましたけど。


この過払いバブルというものは、業界内では既に終わったとも言われていました。(実際時効の問題とかあるし。)

今回のミネルヴァや某司法書士法人S宿中央事務所などは未だにCMを続けているようで、まだCMするほど過払い需要があるんだろうか・・・と勝手ながら心配していたところです。

そもそも業界内的には、CMを流すこと自体が問題視されていたり、品がないなんて言われています。
私自身はそこを問題視していませんが、CMの内容がセンスないし鬱陶しいのでやめて欲しいとは思っています(笑)


さて、件の弁護士法人はこのような業務がメインとして広く知られています。
破産に至った要因は、各報道を見ているとどうも事務所の乗っ取りともいえるような状況であったとされています。
嘘かホントか、そのことは私にはわからないので、仮に報道が真実であったとして、何がいけなかったのかと自分なりに考えてみるのでした。



どこが問題?

報道によると、件の弁護士法人は広告代理店と提携して(ここではあえて提携とします。単に広告を発注していた関係には留まらない様なので)過払い金の広告を打っていたようです。
実際集客はうまくいっていたようです。
過払いで発生した預かり金や売上高を見る限りは。

そしてこの広告代理店から、弁護士法人に対して息のかかった事務員が派遣され、その事務員が事務局の中枢を支配していったようです。
それが酷くなって広告代理店の言いなりになってしまったということみたいです。

事の詳細は検索してみてください。


まぁ売上のほとんどを占める過払い事業の要である広告代理店からの要請を断ることができなかったということなのでしょう。

私見では、やはりその点が問題だったのではないかと思っています。
経営の基本でよく言われることですが、売り上げの構成を3本の柱に分けるべきだと。
結局は、過払い事業に”依存”してしまったことが今回の大きな問題であり、そこに弱みが生まれてしまったわけです。
”依存”は結構やっかいで、依存してしまうと相手側からの無理な要請も断れず、その相手によっては弱みに付け込まれてしまう恐れがあります。

実際、請負関係における元請けと下請けとの関係も似たようなことが起きています。
(こっちは『一応』下請法で少しは保護されますが)
できないこと、すべきでないことをNOと言えない環境が出来上がります。

ゆえに、一つの柱に頼りすぎないことがこういったことを避ける方法の一つではないでしょうか。


また、本当に優秀な経営者は常に先を見て、3本の柱が崩れないように先行投資を行っていくものだと思います。
今は良くても、これを維持できなくては仕方がないですから。


ちなみに、預かり金に手を出したのは、経営とかそういうことじゃなくて、もう人としてダメなのでそこは当然のこととして弁解の余地なしです。


経営者の素養

士業だからって経営者として常に優秀とは限りません。
いやむしろ、士業はその専門分野の勉強をしてきたのであって、いわゆる普通の会社の経営を見たこともありませんから、経営者としては普通よりも素人です。

資格取ったし、ただ司法書士をしていたい、弁護士をしていたいだけであっても、自分の事務所を作った時点で勝手に経営者になってしまいます。


この仕事で生きていくなら必然的に、経営に関するスキルを学ばなくてはいけないように思います。
でも経営ってなかなか学ばせていただける機会がないのが問題です。
今回問題になった広告代理店のような会社やコンサル会社がそのようなセミナーをよくやっていますが、それもまた底なし沼への入り口かもしれません。
士業が信用できる、士業の経営者としての在り方を学ぶ場を作ることが急務なんでしょうね。
そういうのを弁護士会や司法書士会が積極的にやるべきでは?と思いますが、会にそれを求めたところで、自己責任として処理されるでしょう。
今は昔ほど仕事が転がっているわけではないので、ちゃんと理念から戦略、コンセプトを定めなければいけないんですが・・・


宣伝や広告に否定的な、かつて仕事があふれていた時代を生きてきた方々にはそういった発想はないのかもしれません・・・


他には、常になんでも相談できる仲間を持つことが実はすごく重要な気がしています。
困ったとき、悩んだとき肩ひじはらずに何でも相談できる関係の仲間がいれば、最悪の事態にまで陥る前に回避できるかもしれません。
大抵の場合、大きな事件になるときはどこかで誤った判断をしてしまっています。
そんなとき、誰かが道を正してくれれば・・・と思うばかりです。


私たちの仕事は、特に気を付けないと危ない人との接点を持ってしまう可能性もあります。
自分の身は自分で守らないといけません。



士業が経営者として弱い要因は他にもあります。
会社の経営者とは異なり、完全に仕事を任せて経営に徹することができないという点も拍車をかけているところだと思います。
自分の名前で業務を行う以上、管理監督責任が生じるのは当然のことですが、信頼できる事務員に職印を使わせたりすることも懲戒の対象になる可能性もあるので、いくら信頼できてもその権限を委譲することは難しいのです。

この点に関しては資格を付与してもらっている以上仕方のないことなので、いかにして管理監督するかそのシステム構築こそが重要ではないでしょうか?


最後に

今回の弁護士法人の話から、司法書士や弁護士だってより強い経営者になる必要があるように思います。
資格合格後の研修に経営学を追加してもいいぐらいには必要な知識です。

弁護士になりたいだけ、司法書士になりたいだけではやっぱりだめだと感じます。
自分の『好きなことだけで生きていく』というのは実際なかなか難しいものですね。




あと、これは余談ですが、メールするときに相手が読みやすいように、とかじゃなくて自分の感情を表現するのに文字を大きくしたりする人は正直言ってあまり好きじゃないです・・・
なんていうか、押しつけがましいというか強引な感じがします。

メールの書き方ひとつでも人間性が表れるなぁと思う今日この頃でした。



最後までお読みいただき、ありがとうございました!!