Story of 自筆証書遺言保管制度を極める(後編)
経験こそが言葉に差を生む
まず初めに謝罪します。
申し訳ございません!!
前編を書いてから早いもので1ヶ月が経ってしまいました・・・
細かく調べてから保管しに行こう!と思っていた方には大変お待たせしました。
コロナ禍にありながらも、最近は不動産もかなり動いてきています。
住宅購入需要がかなり上がってきているようです。
私の方も、大型の不動産取引と成年後見申立などちょっと業務が立て込んでいまして、なかなかブログに手が付けられていませんでした。
自筆証書遺言保管制度を極める(後編)も引き続き、『分かりやすく、そして丁寧に』をコンセプトに説明したいと思います。
細かい話や余談も多く含まれるので少し長くなりますが、お付き合いください。
ちなみに前編は下記からどうぞ
3.申請書を書く
3番目に申請を持ってきましたが、予約するより前でも構いません。
必要な書類を集めてもらう必要もあるので、人によっては先に申請書の準備をしないと、間に合わないケースもあるためその点はご注意を。
申請書は法務局のページからダウンロードできます。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00048.html
印刷する際は下記の点にご注意ください。
(1)申請書等の様式を開く際は、必ずAdobe Acrobat Readerで開いてください。
なんでもMicrosoft EdgeやGoogle Chromeなどのブラウザから開くとサイズが変わってしまう可能性があるらしいです。
尚、最近購入されたPCにはAdobe Acrobat Readerがデフォルトで入っていない可能性が大です。
Adobe Acrobat Readerは下記からダウンロードを(Readerは無料です。Adobe Acrobat数字やAdobe Acrobat DCなどは有料、しかも高額なので注意を)
https://get.adobe.com/jp/reader/
体験版のMacafeeとかいらないので、☑外してください。
(2)印刷の仕方については下記を
http://www.moj.go.jp/content/001321963.pdf
法務省もここまでやるのはだいぶ手厚いですね。
(3)両面印刷はしないでください。
(4) 拡大・縮小はしないでください。
(5) 様式の印刷に使用する用紙は、以下の条件を満たすものを使用してください。
※市販の「コピー用紙」、「普通紙」、「PPC用紙」等を利用してください。
・大きさ:A4サイズ(拡大・縮小は行わないこと)
・汚れ、曲がり、濡れ、破損、変色等がないこと
(6)印刷した申請書等は、そのまま使用・提出してください。
一度作ったものをコピーして一部書き直して提出とかはダメです。
印刷したものを再度コピーすると、機材によってはほんの少しズレが生じてしまいます。
用紙自体を読み込んで認識するらしいので、枠の位置が大事なんです。
なので、コピー禁止です。
印刷するだけでこれだけ注意点を挙げてたら嫌になるかもしれませんが、簡単に言うとこうです。
①一般的なA4の紙を使う。(汚したり折ったりしない)
②コピーして使わない
③PDFを開くときはAdobe Acrobat Readerを使用する
以上です。
具体的な書き方に入る前に必要書類についてまとめます。
必要書類について
必要書類は下記です。
(1)住民票の写し または 戸籍の附票
住民票は必ず本籍いりのものを準備してください。
後述しますが、保管制度の本人確認は本籍が重要です。
尚、マイナンバーは入れてはいけません。
(2)身分証明書(本人確認書類)顔写真付きの公的なもの
ここは特に注意が必要です。よく確認して下さい。
保管制度では、遺言書を書いた本人が必ず窓口に行く必要があります。
そして、窓口に来た人における本人確認は身分証明書と照らし合わせて行います。
この本人確認は、住民票上の住所か本籍などと写真付きの身分証明書で確認します。
今までの色々な場面での本人確認は、顔写真付きのものがない人に対しては公的証明書を2点提出するなどして対応してきました。
ところが、今回は顔写真付きの身分証明書が必須です。
具体的には以下です。
①運転免許証
②運転経歴証明書
③住基カード(有効期間内のもの)
④マイナンバーカード
⑤パスポート
⑥乗員手帳
⑦在留カード
⑧特別永住者証明書
このうち、誰でも無料で新たに発行できるのは④マイナンバーカードのみです。
ですので、ご高齢の方や免許証を持たずパスポートも持たない方はマイナンバーカードを申請する必要があります。
すぐに受け取れないので注意です。
一応法律上は他にも官公署発行の写真付きの証明書があれば担当官の判断で本人確認ができる、としていますが、上記の証明書以外の写真付きのものってあるんでしょうか?
情報があったら是非教えてください。
もし仮に当てはまりそうなものがあっても、事前に法務局に確認はした方が良いでしょう。
(3)収入印紙 3900円分
今回の保管申請に必要な費用はこの収入印紙3900円分のみです。
収入印紙は、郵便局、コンビニ、法務局などで購入できます。
コンビニでは3900円分ないかもしれないので、事前に準備する場合は郵便局がお勧めです。
当日法務局でも購入できます。
以上3点です。
顔写真付きの身分証明書がないとそもそもマイナンバーカードを早々に手配する必要があるのでご注意ください。
担当官と雑談をする中で、パスポートでの本人確認について聞いてみました。
パスポートを開いてみるとわかると思いますが、パスポートの住所欄って手書きなんですよ。
なので、パスポートは住所に関しての証明力はほぼなしと言っていいと思います。
でも、写真、生年月日、本籍が一致していればそれでも足りるということらしいです。
厳密になっても、住所が足りない証明書でも本人確認ができるという判断のようです。
必要書類も揃った方は次のステップへ。
申請書の作成
本題である申請書の作成について説明していきます。
先ほどの法務省のページから遺言書の保管申請書をダウンロードして印刷してください。
このPDFはAdobe Acrobat Reader上から直接入力も可能です。
青くなっているところをクリックして入力していきます。
書き方の詳細は法務省が作成したもので、結構詳細な資料があるので、こちらも貼っておきます。
http://www.moj.go.jp/content/001321953.pdf
特に注意するところを個別に説明しておきます。
(1)1枚目
上から法務局の名称は、前回確認して予約した法務局の名称を記入してください。
遺言書の作成年月日ついては、申請書の作成年月日ではなく遺言書の作成年月日であることに注意してください。
氏名は問題ないと思いますが、フリガナは、濁点「゛」半濁点「゜」は同じに記入してください。
銀行の振込用紙などのように濁点、半濁点で一マスを使ったりはしません。
それから、生年月日、住所、本籍は念のためよく住民票を確認して記入しましょう。
国籍欄は、日本人は不要です。
(2)2枚目
一番上の、『遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所に保管の申請をする。』のチェック欄は、遺言書を書いた人の住所地・本籍地を管轄する法務局に申請する場合はチェック不要です。
2番目のチェック欄、『申請にかかる申請書は、私が作成した民法第968条の自筆証書による遺言書に相違ない。』これは100%チェックを入れてください。
自分で書いたものに相違ない、という宣誓みたいなものです。
2回目の保管申請の方(1回目の遺言書の保管を終了しているときは不要)は、『現在、遺言書保管所に他の遺言書が保管されている』にチェックを入れてください。
また、1回目の保管の際の保管番号を記載し、その下には1回目保管当時と氏名、生年月日、住所、本籍、筆頭者の氏名に変更があれば記載してください。
(3)3枚目
3枚目及び4枚目は、少し特殊な内容です。
ここでは、遺贈(相続ではなく死亡と共に贈与すること)したり、遺言執行者を選任したりしている場合に記入する必要があります。
遺言書に下記の項目がある方はここに記載しましょう。
①遺言書に相続人以外の人(または法人等)へ財産を与える場合
②相続人に対して、『遺贈する』という文言を使用している場合
③遺言書を実行する人(遺言執行者を定めている)場合
少し専門的になりますが、ここでは、受遺者ではなく受遺者等となっています。
この等には以下の方が含まれます。
①遺言書で認知をされた子
②遺言書で廃除された相続人
③遺言書で廃除を取り消された相続人
④民法の規定によって定められた祭祀承継者
⑤公務員が死亡した際の遺族補償一時金を受けることができる遺族のうち特に指定された者
⑥遺言による信託における受益者または財産の帰属先として指定された者または受益者指定権等の行使により受益者となるべき者
⑦遺言によって保険金受取人の変更が行われた場合の受取人
上記のような方々は、受遺者等としてこのページに記載します。
(4)4枚目
遺言者死亡時の通知制度についての申請です。
遺言を書いた方が亡くなった時に、指定した人に遺言書があることが通知されますので、最も通知をしたい人をここで指定しましょう。
利用は必須ではありませんので、必要なければここにチェックする必要はありません。
①は3ページ目で書いた、受遺者等または遺言執行者に対して通知したい場合に選びます。
②は相続人のうちの誰かに通知したい場合に選びます。
どなたか1名しか選べません。
個人的には、遺言執行者がいる遺言書では、遺言執行者に通知するのがベストだと思います。
遺言執行者さえ知ることができれば、手続きは粛々と進めることができます。
そもそも遺言執行者には、相続人に対して遺言書の存在や遺産の目録を通知する義務があるので、遺言執行者に伝われば全員に伝わるのと同じ効力を持つと言えます。
この死亡時通知制度は、保管制度のユニークな制度です。
公正証書遺言にはない、保管制度特有のかつ結構有用な制度だと思います。
(その実、この制度を作らないと、多くの場合で遺言書が埋もれる可能性があるとも言えます)
遺言書が埋もれないためにも、是非利用して欲しいと思います。
(5)5枚目
5枚目は印紙の納付部分です。
上部保管先法務局名と申請人の住所・氏名を記入してください。
法定代理人は気にしなくていいです。
右側は収入印紙を貼りますが、収入印紙はギリギリまで貼らなくていいです。
もし、何らかの事情で保管申請を行わない(行えない)可能性もあるので、担当官からOKをもらってから貼ってもらえれば問題ありません。
遺言書をチェックしてもらう間、結構な待ち時間があるので、そのタイミングで購入できます。
尚、先にも挙げましたが保管申請の収入印紙は3900円です。
全部記入が終わったら、各ページの右下ページ数欄も忘れずに記入しましょう。
私はしっかり忘れて持って行きました。
また、5枚~それ以上の綴りになった申請書ですが、ホチキスで綴じないでください。
この申請書はスキャンします。
ホチキスで綴じてあったらスキャンできませんので、そのままバラバラでOKです。
さて、ここまで
1.遺言書を書く→2.予約する→3.申請書を書く
とステップを踏んできました。
残すところは、準備したものをもって申請に行くだけです。
4.保管申請をする
(1)書類の確認
ここまで準備してきた書類を用意して、予約した日時に法務局へ行きます。
書類は揃っていますか?
もう一度確認しましょう。
□ 遺言書
封はしていませんか?ホチキスで留めていませんか?
□ 申請書
ホチキスで留めていませんか?
□ 住民票の写しまたは戸籍の附票
本籍の記載がありますか?発行から3ヶ月以内ですか?
□ 写真付きの身分証明書
有効期限は切れていませんか?
□ 収入印紙3900円分または現金3900円
事前に準備しなかった場合は、法務局でも購入できます。
□ 遺言書に押印した印鑑
念のため持って行きましょう。
あまりその場での修正はお勧めしませんが。
そして、ここで大事なことを書きます。
ご自身で書いた遺言書は、必ず、必ずコピーを取りましょう。
何を隠そうこの制度の最大の問題点(?)は、遺言書を保管する際、原本を提出するため手元には遺言書が残りません。
そして、保管成立の証として発行される保管証には、遺言者の氏名、生年月日、保管されている法務局の名称、保管番号しか記載されていません。
遺言書の中身はここからはわかりません。
ご自身の書いた遺言書を確認したい場合は、法務局に行って閲覧申請を行い、遺言書原本かモニター(法務局備え付けパソコン上の画面)で確認することができるに留まります。
当然持ち帰ることはできません。
生きている間は、例えご自身であっても保管したまま内容を紙に印字して持って帰ることができないのです・・・携帯で写真を撮るぐらいは許されるかもしれません(要調査です)。
どんな内容の遺言書にしたか、後から思い出したいときや誰かに相談したいとき手元に原文がないと判断が難しくなります。
遺言書は細かい言い回しも重要な書類ですから、面倒くさがらず、それだけはやって頂きたいと思います。
断言します。人の記憶は薄れます。
忘れるものだと思って行動しましょう。
(2)法務局へ行く
必要書類が揃っていることを確認したら、法務局へ向かいましょう。
法務局によっては、駐車場がとても混んでいるところもありますので、車で行く場合は予定より少し早く出ましょう。
尚、
恐らく多くの法務局で、供託課が兼務しているようですが、案内板には遺言書保管窓口と記載があるはずです。
案内板に書かれたフロアに行きましょう。
尚、5~10分程度の遅刻はともかく、それ以上の遅刻の場合予約キャンセルと扱われることがあるようなので、時間にはくれぐれも慎重に、早めに行ってください。
今後利用者が増えると、担当官は予約でいっぱいの可能性があります。
(3)いざ申請
時間通りに着いたら、予約した旨を伝えればすぐに案内してもらえます。
あとは、担当官と雑談しながら本人確認をしてもらい、遺言書及び申請書のチェックを受け(法的なチェックじゃなく、形式的なチェック)申請しましょう。
複雑な遺言書の場合は、ここで40~50分待たされることになります。
担当官から保管申請完了伝えられますので、代わりに保管証を受け取って終了です。
大事な遺言書が、薄っぺらい緑色の紙に代わると有難味が薄れるような気もしますが、法的には十分有効なので安心してお帰り下さい。
最後に
私自身、保管証には遺言書の写しが添付されるものと勝手に思っていたため、コピーを取っていませんでした。
お客様にご案内する前に、自分が人柱になってホントに良かったのですが、これについては正直制度変更を求めたいです。
自筆証書が手軽さを売りにしているのであれば、それは複数回書くこともある程度考慮されてしかるべきです。
遺言書の中身の確認が面倒では、手軽さが薄れてしまうと思うので、この点は保管証を拡張することで対応できないものでしょうか・・・
全体を通してみると物凄く難しい、というほどでもありません。
ただ、こういった書類を作るのに慣れない方からすると少し難しいかもしれませんので、その場合は、早めに司法書士なり専門家を頼ってください。
公正証書で遺言書を作るよりも安上がりなので、早いとこ専門家に頼んだ方がいいですよ。
司法書士に頼めば、必要書類の収集、申請書の作成、予約まで行えるのであとは遺言書を書いて一緒に法務局に行くだけです。
しかし、もっとも大事なのは申請をすることではありません。
遺言書の中身が揉めない内容になっているのか?法的に有効な内容になっているのか?の方がよほど重要です。
極論を言ってしまえば、保管なんてしなくても有効な遺言書があればいいです。
保管制度を利用すると、より死後の手続きが楽になります。
費用と時間に余裕がある方が利用してください。
保管申請をご自身でお考えの皆様も遺言書の中身がこれで良いのか、是非一度専門家にアドバイスをもらってください。
前編・後編に分けて保管制度を実際に利用して、気を付けるべきポイントをまとめてみました。
余計な情報を省いて、もう少し簡潔にまとめたものも作る予定なので、長いなぁと思った方はそちらをご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!