2020/2/18仕事

Story of 正しい相続放棄

最近立て続けに相続放棄のご相談を頂いたのですが、間違った考え方がかなり浸透しているようなのです。

相続放棄って何?

まず、そもそも相続放棄とは何なのか、そこから勘違いが起きているので整理しておきます。

相続とは、故人の遺産を丸ごと受け取ることを指しますが、当然この中には住宅ローンやサラ金からの借金なども含まれます。

プラスの財産よりマイナスの財産の方が多い場合、相続するメリットがあまりないので、特別に相続したい財産がない限り(そのときは限定承認という方法を取ることも可能です)、相続放棄を検討します。


民法第915条第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、
家庭裁判所において伸長することができる。


簡単にすると、相続後3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる方法で相続放棄をしてください、ということになります。また、この3ヶ月の期間は申し立てによって伸ばすことができます。




相続放棄しないとどうなる?

ここまでが相続放棄の基本です。

『私は相続放棄してるので関係ないですよね』とお客様はおっしゃるのですが、実際のところを聞いてみると、家庭裁判所に申述したことはなく、単に遺産分割協議書に自分の取り分は0にしたものにサインしているケースがほとんどです。

別にこれでも構わないのですが、法的な相続放棄ではないので、もし借金があることがあとからわかった場合、相続人として借金の請求が来てしまうことがあります。


ちょっと難しい話になりますが、債務(借金)は遺産分割しても債権者(お金を貸している人)にはそのことを主張できません。
一般的に、銀行やら金融機関からの借り入れの場合は債務者を代表して1人にすることに同意してくれるので、遺産分割が債権者に主張できているように見えますが、実際のところは債務の遺産分割はあくまで相続人間での取り決めという扱いになります。




本当に関わりたくない相続の場合、ちゃんと家庭裁判所に対して相続放棄の申述を行ってください。
あとから本当に困ってしまうことがあります。




相続放棄ができない場合

最後に一番大事なことを覚えておいてください。


相続放棄を検討するなら、遺産には一切を手を付けるのを避けてください。
民法には下記のような法律があります。


民法第920条
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

法第921条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一  相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条 に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二  相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三  相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。



相続人が、単純承認にあたる行為を行った場合は、相続したものとされてしまい、その後相続放棄ができなくなるというものです。
また、相続放棄後であったとして、単純承認とみなされた場合は相続放棄の効果が無くなってしまいます。


単純承認とは、3ヶ月以内に相続放棄または限定承認をしなかったときの他、遺産を勝手に使ってしまったり、隠したりする行為を指します。

当然といえば当然のことなのですが、具体的に考えるとちょっと悩ましい場面が出てきます。


例えば、故人がアパートに住んでいる場合、賃貸契約を解約して遺品を整理してしまって良いでしょうか?


答えは、NOです。

法律上は、賃貸契約を解約することも、遺品整理(処分)して退去することも単純承認にあたる可能性があるので、相続放棄を検討される方にとってはかなりのリスクがあると考えてください。


では、葬儀費用は遺産から支払っても良いでしょうか?


こちらの答えは、私的にはNOです。ケースによってはYESとなります。

判例上、常識の範囲内の葬儀費用の支出は単純承認にあたらないとされています。
私個人的には、その範囲が争いごとになる可能性はあると思っていますので、極力葬儀費用は相続人個人の財産から支払ってもらう方が良いと思います。


こういう時のために、生命保険に入っておくと便利です。
相続放棄をしても、受取人に指定されている生命保険は受け取れるので、葬儀費用程度は生命保険で捻出できるようにしておくといいですね。

相続放棄の間違った知識は、致命傷になる可能性があります。正しい知識を身に着けていざというときに備えておきましょう!!