2025/5/26相続

Story of 在外日本人と相続

井の中の蛙にならないように外を知ることも大事



最近、電車に乗っていると本当に外国の方の姿を多く見かけるようになりましたよね。少し前から「オーバーツーリズム」が問題になっていましたが、コロナ禍を経て、その流れがさらに加速しているように感じます。インバウンド需要の高まりは素晴らしいことですが、その一方で、日本人が海外へ移住するケースも増えているのかもしれません。

そんな中で、意外と知られていないけれど、いざという時に「え、こんなに大変なの?!」と直面するのが、相続人が海外にいる場合の相続手続きなんです。これが本当に一筋縄ではいかないことが多くて、私も初めて経験した時は頭を抱えました。

今回は、一体何がどう大変なのか、そしてどのように進めていくのか、皆さんに分かりやすくお話ししていきたいと思います。


1.相続と法律〜「どこの国のルールが適用されるの?」〜

まず、相続の話をする上で一番大切なのが、「どの国の法律が適用されるのか?」という点です。


→ 相続人の国籍が日本でなくても日本の法律が適用されます。
あくまで日本の法律上親子関係などの相続関係が認められるかどうかが問題です。


つまり、相続人の国籍は相続の法律に影響はないということです。
一方被相続人については異なります。



→ 日本人が外国で亡くなった場合は、『本籍のある国の法律』に従うのが原則です。

したがって、国外で亡くなっても日本の法律が適用されます。日本にある財産に関しては日本法に従うということで問題ないのですが、国外にある財産については必ずしもそうではありません。国によって相続に関する法律の考え方が異なります。相続を全体として考える法律と財産ごとに考える法律の2種類があり、財産ごとに法律を判断する国の場合は、居住国の法律に従うことが必要があります。



→ やはり、外国籍の方が日本で亡くなった場合も、『本籍のある国の法律』に従うのが原則です。

但し、その国の法律に「居住国(または財産のある国)の法律に従う」と書いてあることがあり、その場合は日本法が適用されます。また先ほどと同じように財産が外国にある場合、居住国の法律に従うこともあります。

これは「国際私法」という分野の話になるのですが、まさにケースバイケース。国の法律や、その財産の性質によって扱いが変わるので、専門家にご相談いただくのが一番確実ですね。


2.在外日本人を含む相続の流れ〜「これっていつもと違うの?」〜

今回は、あくまで日本国内にお住まいだった方が亡くなり、日本国内の財産について、相続人の中に海外在住の方がいらっしゃる場合の流れをお話しします。

もし、故人が遺言書を残されていない場合、相続は通常、以下の手順で進めます。


まず最初に行うのが、誰が相続人なのかを確定する作業です。通常は、故人の出生から死亡までの「戸籍謄本」を収集し、相続人関係図を作成していきます。

ここで、海外在住の相続人の方が登場すると、少し手続きが変わってきます。もし相続人の方が日本国籍を失っている場合(厳密には「在外邦人」とは呼べないかもしれませんが)、その方が居住されている国の戸籍に似た制度があれば、その国の戸籍や身分に関する証明書を取得していただく必要があります。

そして、これらの書類は日本語への翻訳が必須になります。これが結構な手間なんですよね。

さらに、国によっては戸籍に類する制度がなかったり、あっても取得が難しい場合もあります。そういった場合は、現地の「公証人」(日本でいう公証役場のような存在)に依頼して、「宣誓供述書」というものを作成いただくこともあります。この辺りは本当に国によって事情が異なるので、ケースバイケースで対応を考える必要があります。



次に、故人がどのような財産をお持ちだったかを調査し、整理します。預貯金はもちろん、不動産、株式などの有価証券や出資金、ゴルフ会員権、自動車など、様々な財産をリストアップしていきます。
網羅的に調査できる方法は少なく、財産に関する資料を探すなど結構アナログな方法で調査することになります。



財産の内容と相続人が確定したら、相続人全員で「誰がどの財産をどれくらい相続するか」を話し合います。

海外にお住まいの方がいらっしゃる場合、話し合いは主に電話やメール、最近ではビデオ通話などを活用して行われます。これならお互いの顔を見ながら話せるので、遠距離でも意外とスムーズに進むことも多いです。

ただ、もし話し合いがまとまらない場合は、日本の家庭裁判所で「遺産分割調停・審判」という裁判手続きを行うことになります。海外在住者がいる場合の裁判は、通常のケースよりもさらに手続きが複雑になったり、時間がかかったりすることがあります。ですので、できるだけ話し合いで解決できるよう、お互いが少しずつ譲歩することも大切になってきます。


話し合いがまとまったら、その内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成します。この書類には、相続人全員の署名と、日本の制度では「実印」での押印が必要になります。

しかし、ここでまた一つポイントが。日本を除くほとんどの国では、「印鑑登録制度」が導入されておらず、「実印」という概念自体が存在しないんです。一般的に諸外国では、署名だけで契約が成立することが多いので、在外日本人の場合は、遺産分割協議書にも「署名のみ」で足りるとされています。

その代わり、その署名が本人の下署名であることを証明する「署名証明書」というものが必要になります。「サイン証明書」とも言います。



遺産分割協議書が完成したら、いよいよ各財産の名義変更などの手続きを行います。金融機関での預貯金の解約・名義変更や、法務局での不動産の名義変更(相続登記)などを行っていきます。



このような流れで進んでいきます。 ちなみに、もし故人様が有効な「遺言書」を残されていた場合は、かなり手続きが簡略化されます。遺言執行者が相続人を調査し、戸籍や遺言の内容を通知する義務はありますが、遺言の内容に従って手続きを進めればよく、遺産分割協議の必要がなくなるという点は、遺言書がない場合と比べると非常に大きな違いとなります。


3.必要書類〜「何を用意すればいいの?」〜

相続手続きを進める上で、一般的に必要となる書類は次のとおりです。

⑴亡くなられた方(被相続人)の書類
 ・出生から死亡までの全ての戸籍謄本、改製原戸籍謄本、除籍謄本一式
 ・住民票の除票または戸籍の附票(または除附票)

⑵相続人の書類(特に在外日本人の方)
 ・相続人全員の現在の戸籍謄本
 ・相続人(在外日本人)の在住国における戸籍制度の証明書(※翻訳が必要になることが多いです)
 ・相続人全員の印鑑登録証明書(日本在住の方)
 ・相続人(在外日本人)の署名証明書(日本の領事館などの在外公館、または居住国や日本の公証人が発行します)
 ・不動産を取得する相続人の住民票(日本在住の方)
 ・不動産を取得する相続人(在外日本人)の在留証明書、宣誓供述書など住所を証明する書類(日本の領事館などの在外公館、または現地の公証人が発行します)

上記以外にも不動産の登記の際には不動産に関する資料(権利書、固定資産税の納税通知書など)が必要になったり、預金の解約には通帳やキャッシュカードも提出することになります。

4.まとめと対処法〜「結局どうすればいいの?」〜

ご覧いただいたように、海外在住の日本人が相続人の中にいらっしゃる場合、通常の相続手続きと比べて、書類の取得や翻訳、またコミュニケーションの面で、どうしても手間がかかってしまうのが現状です。

特に、慣れない海外での手続きや、国の制度の違いを乗り越えるのは大変な労力が伴います。

実はこの大変な手続き、故人遺言書を正しく書いていれば、かなり簡単な手続きに変更することができます。遺言書はこんな場合にもとても有効です。
これをお読みの方で在外相続人がいる方はぜひ遺言書を検討してみてください。

もし、ご自身やご家族がこのような状況に直面された場合は、専門家にご相談いただくことを強くお勧めします。当事務所では、在外日本人の方の相続手続きについてもサポートしておりますので、ご不安な点があればお気軽にご連絡ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!